公開: 2024年2月4日
更新: 2024年2月5日
学力偏差値は、東京のある中学校の教員が、生徒の進路指導を合理的に実施できないかと考え、1957年に提案した生徒の学力評価法です。それは、生徒たちの試験の成績が全体の平均点を中心に、釣鐘(つりがね)状の形に分布すると考えれば、各生徒の試験の成績が平均点からどれだけ上または下に偏っているかを、偏差値で測れると考えられるからです。平均点から、極端に離れて高い点は、ほとんどとれる生徒がいないので、高い偏差値になります。
この偏差値は、個々の生徒の学習成果を測るためにも利用できますが、試験の難しさを測る方法としても利用できます。多くの生徒が受験した試験で、どの生徒がどれくらいの偏差値であったかを知っていれば、ある生徒が合格した学校の偏差値がどの程度であるかを知ることができます。多くの生徒が通う学習塾や、大学予備校が実施する「模擬試験」では、そのようなデータを収集し、生徒が入学を希望する高校や大学などの合格偏差値を算出しています。
このようにして算出された合格者の最低偏差値の値を用いて、高校や大学の入学の難しさの度合を順序化することができます。日本の社会では、大学への入学のし易さを、大手の予備校が算出しています。この偏差値に基づいた、入学のし易さの順序で、日本全国の大学の序列が判定されているのが実態です。それを偏差値教育と呼びます。
現代日本社会の教育制度の問題は、教育制度の効率的な運用のために、この偏差値教育を最も基本的な方法とした点にあります。日本以外の先進国でも、偏差値教育の方法を応用している例は、多く見られますが、それらの国々でも、他の教育方法を取り入れた、ハイブリッド型の教育制度が採用されています。例えば、米国社会の教育制度では、大学入学に必要な最低の知識水準を指定するために、偏差値教育の方法を利用していますが、特定の大学への入学を決定するためには、志望動機の説明、育った家庭環境の説明なども参考にして、総合的に判断される例が普通です。
日本の大学の入学選抜のように、一斉に実施された共通試験と、個々の大学で実施される個別試験の結果に基づき、志望者の成績を決められた方法で計算して得られる総合点で順序化して、一列に並べて、合格基準の線を上回っている受験者を機械的に合格とする方法は、一見、客観的で受験者からの不満は出にくいのですが、入学後の学びにおける、合格学生の適性や、性格的な問題は、考慮されないため、退学する学制の数を増加させます。